おすすめディスク #35 Dr. John “Tribal”
ピーター・バラカン(2010/09/24)
Dr. John “Tribal”
ニュー・オーリンズの非公式親善大使を務めるドクター・ジョンは50年以上に及ぶ活動歴で様々なスタイルのニュアンスを帯びたレコードを作ってきましたが、その核となるのはいつも同じファンキなブルーズです。今回ももちろん変わることがありませんが、このアルバムはどういうわけか特に印象が強いです。ここ数年ずっと一緒に活動しているグループThe Lower 911との共同名義で、また彼らと10月に来日します(18、19日六本木のビルボード・ライヴ東京)。アルバムではデレク・トラックス、そしてニュー・オーリンズのサックス奏者ドナルド・ハリスンが一曲ずつゲスト参加していて、それぞれがブルーズ寄り、ジャズ寄りになっています。作詞家としてもとても面白い才能を持ったドクター・ジョンはここで故郷が抱えている問題を含めて、アメリカ社会の病んでいる部分に目を向けてユーモア交じりの鋭いタッチで言うべきことを言っています。
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ピーター・バラカンのおすすめ #10
ピーター・バラカン(2010/09/17)
b>Mose Allison “The Way Of The World”
今年で82歳になったモーズ・アリスンは12年ぶりに新作のアルバムを発表しました。本人は「また売れないレコードをなぜ作るの?」と思っていたところ、プロデューサのジョウ・ヘンリがしつこく彼を説得し、名盤を作り上げました。とはいえ、少ない日数でほとんどライヴ同然の録音だったそうで、相変わらず皮肉の利いたモーズの歌が新鮮です。いつものピアノ・トリオの他に、曲によってはサックスやギターなども起用され、ブルーズとジャズにまたがるモーズの独特の雰囲気に新たな響きが絶妙に加わっています。10月3日から6日までの初来日公演(コットン・クラブ)は必見です。
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ピーター・バラカンのおすすめ #9
ピーター・バラカン(2010/09/10)
Abdullah Ibrahim “Senzo”
間もなく来日する南アフリカのジャズ・ピアノの名人は今年で76歳です。2年前に録音されたこの「先祖」では彼の新旧の曲が全く切れ目のない組曲のように連続して演奏されます。ピアノ・ソロなのでわりと内省的な雰囲気で、ほとんどクラシックのように聞こえる部分もありますが、終始アフリカの大地の香りがするのは昔からの彼の特徴です。極めて美しい音楽です。9月29日のサントリー・ホール(ブルー・ローズ)、そして10月2、3日は京都の上賀茂神社の境内で演奏します。
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ピーター・バラカンのおすすめ #8
ピーター・バラカン(2010/06/18)
Absolute Ensemble “Absolute Zawinul”
2007年9月に皮膚癌のため75歳で亡くなったジョウ・ザヴィヌルは最後の最後までこのプロジェクトに精力的にかかわっていたそうです。2004年にジャンルを超えた音楽に取り組んでいるこのアンサンブルのリーダー、エストニア生まれのクリスチャン・ヤルヴィに共演依頼を受けたサヴィヌルはウェザー・リポートのかつてのヒット曲を再現するのではなく、21世紀のジョウ・ザヴィヌルの音楽を展開するという条件で引き受けたのですが、彼のザヴィヌル・シンディケイトのメンバーも参加していることですし、全くかけ離れたものではありません。オーケストラとのコラボレイションなので当然作曲面が重視されていますが、例えばスティーヴ・ライヒのような雰囲気の部分もあって、主に新曲の素材で、ザヴィヌルのファンなら誰でも満足する作品だと思います。このプロジェクトを描いたドキュメンタリー映画からの11分ほどの面白い抜粋もあり、コンピュータで観られます。
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おすすめディスク #34 Robert Glasper “Double Booked” (EMI)
ピーター・バラカン(2009/10/16)
Robert Glasper “Double Booked” (EMI)
アルバムの冒頭は留守電の伝言のようです。どうやらロバート・グラスパーのトリオと彼が持っているもう一つのユニット「エクスペリメント」が両方共同じ日に同じ会場にスケジュールが入っていてこんがらがっている相手が「どうなっているか、教えてくれよ!」と言っています。本当にそんないきさつがあったかどうか分かりませんが、アルバムの前半はいつものトリオ、後半は例のエクスペリメントの演奏になっています。
とはいえ、グラスパーのトリオは元々リズム敵にはヒップ・ホップのニュアンスがあり、独特の雰囲気を持っているので、あまり企画の違いが気になるものではありません。ドラマーのクリス・デイヴは両方に参加していて、ベイスはアクースティックかエレクトリックかで変わりますが、一番おきな違いはエクスペリメントでのサックスの存在、そして数曲でヴォーカルやラップの登場でしょう。
グラスパーのピアノは間違いなくモダンな響きですが、非常にメロディックでもあり、決して分かりにくいところはありません。ときたまブルース・ホーンズビが弾きそうなフレイズが聞こえたりすると意外な感じもしますが、本当に幅の広い感性を持ったミュージシャンです。ぼくは前作よりもこれを気に入っています。
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ピーター・バラカンのおすすめ #7
ピーター・バラカン(2009/09/25)
「レコーディング・スタジオの伝説」(P-Vine Books)
Jim Cogan & William Clark著、奥田祐士訳
この本の帯にぼくのこんなコメントが書いてあります。「いつまでも人を感動に導く50年代、60年代のサウンドを作った人たち、そしてその人たちが作ったスタジオの話です。音楽の裏話が好きなぼくのような人間にとって楽しい雑学満載の本です。」
その通りの一冊です。取り上げられているレコーディング・スタジオは色々あります。大手ではLAのキャピトル(当時は小さなインディーズ)やRCA、ニュー・ヨークのコロンビアなどがあり、伝説のインディーズではメンフィスのサンやスタックス、デトロイトのモータウン、シカゴのチェス、ニュー・ヨークのアトランティック、またレコード会社とは関係ないところではニュー・オーリンズのJ&M、マイアミのクライティリア、ジャズの世界では加須ケ切れない名盤が生まれたルーディ・ヴァン・ゲルだーのスタジオも登場します。
それぞれの設計者、エンジニアの個性的な発想の話もとても面白いですが、これは決して技術に特化した本ではありません。むしろ各スタジオを利用したプロデューサーたちが手がけた音楽にまつわるエピソードが多く、音楽ファンならお薦めの本です。
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おすすめディスク #33 The Beatles in Mono (リマスター盤)
ピーター・バラカン(2009/09/11)
The Beatles in Mono (リマスター盤)
ビートルズと共に育ったぼくの世代はどのレコードもリアル・タイムで楽しみ、まだ子供だったということもあって、それほど沢山のレコードを持っていなかったので何回聞いたか知らないほど脳裏に焼き付いているものです。少なくともそのつもりでした。でも、子供の頃はモノのレコード・プレイヤやラジオで聴いていたわけで、曲自体は本当に細部まで記憶には行っていますが、あまりサウンドのことは意識したことがありませんでした。今年の初めに生まれて初めて(だったと思います)デビュー・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」の初回プレスのLPを高級アナログ機材で聴かせてもらったら音質の生々しさに本当にびっくりしました。モノラルでしたが、それまで聴いていたCDよりあまりにも音がよかったのでちょっとショックでした。あれから半年経ったところでようやくビートルズのアルバムがすべてリマスターされたわけです。あちこちで話題になっているので特に付け加える話はありませんが、久々に通して聞き直すと、長年当たり前にしていたアルバムの中の曲にいかに優れた作品が多いか、実に感心しました。今更何を!と言われそうで恥ずかしいですが、やっぱりビートルズのアルバムは定期的に聴くべきだということがよく分かりました。
ぼくはまだモノ盤しか聴いていませんが、ぼくのごく普通のオーディオでもそうとういい音です。このモノのボックスが限定盤という話ですから、高価な商品であることを認識しながらも、一生の友として今のうちにお薦めします。
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おすすめディスク #32 Tony Allen “Secret Agent”
ピーター・バラカン(2009/07/24)
Tony Allen “Secret Agent”
フェラ・クティのアフロビートは70年代に台頭して、まだ誰も「ワールド・ミュージック」の話をしていなかった時代に世界でかなり話題となりました。フェラ自身のヴィジョンと反権力の姿勢と共に、このバンドの最強の特徴となっていたのはトウニ・アレンのドラミングでした。フェラは4人が同時に演奏しているように聞こえるといったらしいですが、そのリズムのアクセントはとにかくユニークです。ドライヴ感が極めて強いのにリズムには落ち着きがあり、妙にゆったりした感じもあります。79年にフェラのバンドから独立した彼はソロ・アルバムを定期的に出し、パリを拠点にスタジオの仕事と平行して活動してきましたが、もう69歳の彼は時代と共に変わり、最近はエレクトロニクスも取り入れていました。この新作はそうではなく、アフリカ諸国とフランスのメンバーと共にアフロビートを基に洒落たファンキ・ミュージックを作りました。あのドラミングはまだまだ健在で、若々しくさえ感じる音楽です。
おすすめディスク #31 Django Reinhardt “The Great Artistry of Django Reinhardt/Django’s Guitar”
ピーター・バラカン(2009/07/17)
Django Reinhardt “The Great Artistry of Django Reinhardt/Django’s Guitar”
最近日本語訳でも出版された「ジャンゴ・ラインハルトの伝説」を読んで、1953年にたった43歳で亡くなったこの天才ギタリストに改めて興味をもちました本の最後の方で触れていた彼の最後のレコーディングは亡くなる2ヶ月前、後にヴァーヴ・レイベルを興すアメリカのプロデューサー、ノーマン・グランツのクレフ・レコードのためにパリで行われました。初期のジプシー・スウィング時代と違ってピアノ、ベイス、ドラムズをバックにした編成で、ジャンゴ自身もエレクトリック・ギターを弾いています。「ナイト・アンド・デイ」や「ブラジル」といったよく知られた曲も演奏し、戦時中に本人の代表曲となった「ニュアージュ」(雲)の素晴らしい新ヴァージョンもあります。この2イン1のCDに入っているもう一枚分は30年代後半から40年代後半の間に録音されたソロ・ギターやデュエットなどのミニマルな雰囲気の演奏ばかりを集めたコンピレイションです。いつも聴くジャンゴとは趣の異なった実によい作品です。伝記の本も興味の尽きない力作なので、お薦めします。
おすすめディスク #30 Allen Toussaint “The Bright Mississippi”
ピーター・バラカン(2009/07/10)
Allen Toussaint “The Bright Mississippi”
今年71歳になったアラン・トゥーサンの音楽活動はもう半世紀以上に及びます。十代からピアニストとして故郷ニュー・オーリンズのレコーディング・スタジオで起用され、60年代に入るとソングライター、プロデューサーとしても次々とR&Bのヒット曲を生み出して行きました。そして70年代からこれらの活動に加えてソロ・アーティストとしてのアルバムも発表するようになりましたが、彼の仕事は全てR&B、ファンク、ソウルなどの分野でした。全盛期はやはり70年代でした。その後さほど話題に上ることはなかったのですが、ミュージシャンの間では彼に対する尊敬は相変わらずたかったのです。エルヴィス・コステロとの共演アルバムも記憶に新しいですが、トゥーサンのことをとりわけ評価しているプロデューサーのジョウ・ヘンリは彼にニュー・オーリンズの古いジャズのレパートリを特集したアルバムを提案したのです。トゥーサンにとって生まれて初めての試みでいたが、既に2度ジョウ・ヘンリと満足できる仕事を経験していたのですぐにこの提案を受け入れました。シドニ・ベシェやルイス・アームストロングやジェリ・ロウル・モートンといったニュー・オーリンズの代名詞のような人たちの演奏で有名な曲の他、デューク・エリントン、セロウニアス・マンク(タイトル曲)の作品にも挑み、全編抑制された雰囲気の美しいアルバムを仕上げました。今のニュー・オーリンズを代表するトランペットの(比較的)若手ニコラス・ペイトン、クラリネットの名人ドン・バイロン、ジョウ・ヘンリがよく起用するマーク・リーボウとジェイ・ベラロウズというギターとドラムズの一流職人といった素晴らしいミュージシャンたちに囲まれたトゥーサンは久々の力作を作りました。





